たなべ未来創造塾-地域から必要とされる新たな仕事を創りだす-
未来デザイン

たなべ未来創造塾 第5期 事業レポートReport

4日目「地域事例を知る、サプライチェーン・バリューチェーン」

2020年9月19日
日時 :令和2年9月19日(土)13:30~16:30
会場 :たなべる2階 大会議室

市内事例として、熊野米プロジェクトに取り組む(株)たがみの田上雅人氏、熊野米を活用し、日本酒「交」を作った(株)堀忠商店の堀将和氏、梅と鰻の仲直りプロジェクトに取り組んでいる太田商店の太田有哉氏から、実践事例を学んだ。

今回のテーマは、「バリューチェーン」「サプライチェーン」。
 強みを持つ事業者同士がつながることで価値が高まる。一人ではできないことも、みんなで取り組めば可能となる。生産から消費までの流れの中で、誰とつながると価値が高まるのか、どうwin-winの関係性を構築するか。

地方で生き残るためには、人とのつながりは重要なのだとあらためて感じさせられる講義となった。

講義 「熊野米プロジェクト~地域を見直し新しい価値を創造する米づくり~」

講師 :(株)たがみ 専務取締役 田上雅人 氏
「熊野米プロジェクト~地域を見直し新しい価値を創造する米づくり~」

米屋が米農家になる。人口減少が進む中、米屋が生き残って行くために田上氏が出した答えだった。
 和歌山県はめはり寿司やさんま寿司、鯖寿司など米文化が豊かな地域でありながら、地場産米は後継者不足で生産もままならない状況となっている。そのため、20歳代の頃から抱いていた「オリジナルの米を作りたい」という思いをカタチにしたいと考えた。

品種は、コシヒカリではなく、地域の特性にあった「ヒカリ新世紀」を採用。これまで主に廃棄されていた梅の調味廃液を田んぼに施用することで、地域課題の解決につなげるとともに、雑草が抑制、除草剤の使用が軽減されることで、安心・安全な米を消費者に提供する地域循環型の米づくりとして、地元生産農家や県農業試験場、田辺商工会議所と連携し、農商工連携の認定を受け、「熊野米プロジェクト」を始動した。
しかし、生産する農家が儲からないと米づくりは続かない。通常の米よりも高く、一定の値段で買い取る仕組みを構築。当初は農家集めに苦労したが、徐々に賛同してくれる生産農家が増え、今では農家所得が向上するとともに、Uターン者が増えるなど担い手の確保にもつながっている。
また、田上氏は、自らも遊休農地を活用し、農業に参入。「商」から「農」へ。全国でも1~2例程度しかないケースとのこと。栽培の苦労が分かると、「一生懸命作った米を安く売りたくない」といった気持ちが芽生えた。

そのため、ホームページを開設し、「熊野米」の背景やストーリーを伝えるとともに、米屋以外のところにも置くことができ、手に取ってもらえる商品を目指し、パリ在住のデザイナーとコラボし、これまでの米にないデザインを完成、商標登録も取得した。

核家族化や多忙なライフスタイルへの対応、非常食としての役割も見据え、300gの小分けサイズや米粉パン、熊野米リゾットなど新商品の開発にも力を注いだ。
販売先は、地元ホテルや飲食店、産直店、市内外の量販店など多岐にわたる。商談会にも積極的に出向き、新たな販路開拓にも取り組んでいる。

そして、「安売りは一切しない。そうすればブランド価値が下がり、そのしわ寄せが農家に行き、結果的に地域を守ることができなくなる」という強い信念を持っている。
また、これまでの取組が評価され、フードアクションニッポンアワード入賞や各種メディアに取り上げられるなど、「熊野米」への追い風は大きく吹き始めている。
さらに、新たな展開として、裏作への挑戦や、堀忠商店とコラボした日本酒プロジェクト、熊野米10周年に向けた取組などにも着手していることを紹介した。

「関係人口」の創出にも努めている。都会に住みながら地方に関わりたいという人を対象とした連続講座「たなコトアカデミー」や、高校生による収穫体験、都市圏企業のワーケーション受け入れなど。
こうした中、新型コロナウイルスが、(株)たがみの企業経営にも大きな影響を及ぼしている。
しかし、「たなコトアカデミー」で関係人口となった都市圏住民がECサイトの立ち上げを手伝ってくれたり、ソフトバンクと連携し、スマート農業に着手するなど、これまでの田上氏の人づくりが土台となり、ピンチをチャンスに変えつつある。

最後に、「やり続ければ、いつかは成功する」「自分一人でできないことでも人とつながることで新たな価値が生まれる」「思考は行動を変える、自分の頭で考えたことは必ずできる」と自身の経験から5期生へメッセージを送り、講義を終えた。

講義 地元に愛される酒「交」

講師 :(株)堀忠商店 堀 将和 氏(1期生)
地元に愛される酒「交」

酒類の消費量は、平成に入ってからやや減少にとどまっているものの、内訳をみると、これまで主力であった日本酒やビールの消費量が大幅に減少している。また、酒類業免許場の推移では、平成17年の酒類免許自由化により、コンビニエンスでの販売が大幅に伸びており、堀忠商店の主たる卸売先である一般酒販店の割合が平成7年度の78.8%から、平成27年度には28.4%にまで減少している。

こうした状況の中、どうすれば自社が生き残れるかを考え、ネット販売や空き瓶の回収による販路開拓に取り組んできたものの、抜本的な解決には至らなかった。
そのため考えたのが自社の新たな価値の創出、オリジナルの日本酒の開発であった。

酒類の輸出額をみると日本酒が大幅に増加していることが分かり、田辺市では世界遺産登録後、外国人観光客が大幅に増加していることもあり、外国人への提供がビジネスチャンスになるのではないかと考え、テストマーケティングを兼ねて200店舗もの飲食店が軒を連ねる「味光路」で提供することとした。
また、国内のビジネスチャンスを模索する中、日本酒の購入割合をみると、スーパーやディスカウント店、コンビニエンスストアよりも一般酒販店での割合が大きいことから、日本酒を作ることで自社の卸売先である一般酒販店を守ることにもつながるのではないかと考えたのである。
では、どうすれば、ここにしかない日本酒を作ることができるのだろうか。

酒造りには、粒が大きく、磨きにも耐えることのできる酒米を使うのが通常だ。しかし、当地に根差した食用うるち米である熊野米を使うことで、他にはない新たな価値が生まれるのではないかと考えたのである。製造は、同じ和歌山県内の高垣酒造に、さらに日本酒のブランディング、プロモーションは地元のTETAUに依頼し、多くの人が日本酒の出来上がるまでのプロセスを共有することで地域に愛される日本酒を作ろうというプロジェクトを始動、まち歩きや熊野古道歩きを通じて、地域のことを知りながら、参加者全員で一緒に日本酒を作ることで、ここにしかない価値、共感される背景やストーリーが込められた日本酒が完成した。

堀氏は、人のつながりや交わりで生まれたという意味を込めて日本酒に「交」という名をつけたのである。こうした取り組みが評価され、各種メディアに取り上げられるとともに、2018プレミア和歌山において審査員奨励賞を受賞など注目されるようになっている。

しかし、新型コロナウイルスが、地域の飲食店に大きな影響を及ぼし、酒屋卸である堀氏も大きなダメージを受けている。

こうした中、農村部でフランス料理店を営む4期生の更井氏が自分の経営が苦しいにも関わらず、酒屋を救おうと酒付きオードブルを販売、今度は堀氏が飲食店の弁当をデリバリーするなど事業者同士の助け合いが生まれている。次の展開は、「買い物支援サービス」。
高齢者の困りごとを解決しながら、お得意さまである地域の酒屋を救うことで、自社も生き残る。
こうした地道な取り組みを積み重ねることで、バリューチェーンを強化していきたいという。

最後に、堀氏は、

  • ・地域課題の中にチャンスがある
  • ・未来塾を通じて、異業種との強い絆が生まれる
  • ・いろんな人とつながれば、新しい価値が生まれる
  • ・情報はたくさん転がっている。それを収集することで、ビジネス大きな力となる
と5期生に伝え、講義を終えた。

講義 梅と鰻の仲直りプロジェクト

講師 :太田商店 太田 有哉 氏(3期生)
梅と鰻の仲直りプロジェクト

太田商店は、創業84年目を迎える持ち帰り専門の鰻屋である。

しかし、鰻の稚魚が獲れなくなったことから、原価は10年前の2.5倍以上に。今後、どのような企業経営に取り組めばよいのか、大きな課題と悩みを抱え、たなべ未来創造塾への入塾を決意した。
講義を通じて、自社の課題と地域課題を洗い出す中で、食べ合わせが悪いと言われる梅と鰻、それぞれの課題を解決する商品を開発できないかと考えるようになった。
鰻の課題は、価格高騰、客数の減少、若者の鰻ばなれ、田辺が産地というわけではない、夏の繁忙期以外をどう乗り切るか。

一方、地域(梅)の課題は、形や傷で価格が下がってしまう、若者の梅ばなれ、価格変動の大きさなど。
これら両方の課題を解決するために考えたのが、「紀州南高梅ひつまぶし」である。
この商品開発により、鰻屋としては、産地ではない鰻も地域性を出すことができ、繁忙期以外に仕込めるため、暇な時期の従業員を有効活用することも可能となる。また、梅の課題である規格外の梅について、適正な価格で買い取ることで、両方の課題を解決している。
販売開始後は、田辺市ふるさと納税の返礼品に登録されたり、テレビや媒体で紹介されたりと、徐々に共感が広まり、令和元年度のプレミア和歌山において、特別賞(最高賞)を受賞した。
また、未来塾2期生の農家、野久保氏とコラボし、廃棄する鰻の骨を活用した肥料を製造、畑へ戻すとともに、剪定した梅の木や枝などをチップにし、鰻の燻製をつくるなど、お互いの廃材を活用・循環させることで価値を高めている。

こうした取り組みにより、ホームページを通じて県外からの注文が増えるとともに、他の商品の売上げも増加し、しっかりと企業利益へとつながっているのである。
これまで相性が悪いと言われてきた組み合わせでも、一歩踏み込んでお互いの課題から考えることで素晴らしい組み合わせに変えることができる。

課題の中には、チャンスが眠っているということを実感する講義となった。