たなべ未来創造塾
未来デザイン

たなべ未来創造塾 第3期 事業レポートReport

「地域資源を生かした新たな価値の創造」

2018年9月22日
日時 :平成30年9月22日(土)14:00〜17:00
会場 :田辺市役所3階 第一会議室

市内事例として、熊野米プロジェクトに取り組む(株)たがみの田上雅人氏、酒の卸問屋の生き残りのため自社オリジナルの日本酒製造に取り組んでいる(株)堀忠商店の堀将和氏から、CSVの実践事例を学んだ。

講義 「熊野米プロジェクト〜地域を見直し新しい価値を創造する米づくり〜」

講師 (株)たがみ 専務取締役 田上雅人 氏
たなべ未来創造塾 6日目 熊野米プロジェクト〜地域を見直し新しい価値を創造する米づくり〜

米屋が米農家になる。人口減少が進む中、米屋が生き残って行くために田上氏が出した答えだった。

和歌山県はめはり寿司やさんま寿司、鯖寿司など米文化が豊かな地域でありながら、地場産米は後継者不足で生産もままならない状況となっている。そのため、20歳代の頃から抱いていた「オリジナルの米を作りたい」という思いをカタチにしたいと考えた。

品種は、コシヒカリではなく、地域の特性にあった「ヒカリ新世紀」を採用。これまで主に廃棄されていた梅の調味廃液を田んぼに施用することで、地域課題の解決につなげるとともに、雑草が抑制、除草剤の使用が軽減されることで、安心・安全な米を消費者に提供する地域循環型の米づくりとして、地元生産農家や県農業試験場、田辺商工会議所と連携し、農商工連携の認定を受け、「熊野米プロジェクト」を始動した。
しかし、生産する農家が儲からないと米づくりは続かない。通常の米よりも高く、一定の値段で買い取る仕組みを構築。当初は農家集めに苦労し、274aだった栽培面積が、徐々に賛同してくれる生産農家が増え、今では8haにまで増加。農家所得の向上とともに、Uターン者が増えるなど担い手の確保にもつながっている。

また、田上氏は、自らも遊休農地を活用し、農業に参入。「商」から「農」へ。全国でも1〜2例程度しかないケースとのこと。栽培の苦労が分かると、「一生懸命作った米を安く売りたくない」といった気持ちが芽生えた。そのため、ホームページを開設し、「熊野米」の背景やストーリーを伝えるとともに、米屋以外のところにも置くことができ、手に取ってもらえる商品を目指し、パリ在住のデザイナーとコラボし、これまでの米にないデザインを完成、商標登録も取得した。

また、核家族化や多忙なライフスタイルへの対応、非常食としての役割も見据え、300gの小分けサイズや米粉パン、熊野米リゾットなど新商品の開発にも力を注いだ。販売先は、地元ホテルや飲食店、ECサイト、産直店、市内外の量販店など多岐にわたる。商談会にも積極的に出向き、新たな販路開拓にも取り組んでいる。

そして、「安売りは一切しない。そうすればブランド価値が下がり、そのしわ寄せが農家に行き、結果的に地域を守ることができなくなる」という強い信念を持っている。こうした取組が評価され、フードアクションニッポンアワード入賞や各種メディアに取り上げられるなど、「熊野米」への追い風は大きく吹き始めている。

さらに、新たな展開として、裏作への挑戦や、堀忠商店とコラボした日本酒プロジェクト、熊野米10周年に向けた取組などにも着手していることを紹介した。

最後に、「やり続ければ、いつかは成功する」「自分一人でできないことでも人とつながることで新たな価値が生まれる」「思考は行動を変える、自分の頭で考えたことは必ずできる」と自身の経験から三期生へメッセージを送り、講義を終えた。

講義 地元に愛される酒「交」

講師 (株)堀忠商店 堀 将和 氏(1期生)
たなべ未来創造塾 6日目 地元に愛される酒「交」

酒類の消費量は、平成に入ってからやや減少にとどまっているものの、内訳をみると、これまで主力であった日本酒やビールの消費量が大幅に減少している。

また、酒類業免許場の推移では、平成17年の酒類免許自由化により、コンビニエンスでの販売が大幅に伸びており、堀忠商店の主たる卸売先である一般酒販店の割合が平成7年度の78.8%から、平成27年度には28.4%にまで減少している。

こうした状況の中、どうすれば自社が生き残れるかを考え、ネット販売や空き瓶の回収による販路開拓に取り組んできたものの、抜本的な解決には至らなかった。そのため考えたのが自社の新たな価値の創出、オリジナルの日本酒の開発であった。

酒類の輸出額をみると日本酒が大幅に増加していることが分かり、田辺市では世界遺産登録後、外国人観光客が大幅に増加していることもあり、外国人への提供がビジネスチャンスになるのではないかと考え、テストマーケティングを兼ねて200店舗もの飲食店が軒を連ねる「味光路」で提供することとした。
また、国内のビジネスチャンスを模索する中、日本酒の購入割合をみると、スーパーやディスカウント店、コンビニエンスストアよりも一般酒販店での割合が大きいことから、日本酒を作ることで自社の卸売先である一般酒販店を守ることにもつながるのではないかと考えたのである。

では、どうすれば、ここにしかない日本酒を作ることができるのだろうかと考え、親交のあった田上雅人氏が栽培する熊野米を使うこととした。酒造りには、粒が大きく、磨きにも耐えることのできる酒米を使うのが通常である。しかし、食用うるち米である熊野米を使うことで、他にはない新たな価値が生まれるのではないかと考えたのである。

製造は同じ和歌山県内で南方熊楠にゆかりのある株式会社世界一統に、さらに日本酒のブランディング、プロモーションは堀氏が一期生として参加したたなべ未来創造塾に関わる中間支援組織TETAUに依頼した。

TETAUによるブランディングは、多くの人が日本酒の出来上がるまでのプロセスを共有することで地域に愛される日本酒を作ろうというものであった。まち歩きや熊野古道歩きを通じて、地域のことを知りながら、参加者全員で一緒に日本酒を作ることで、ここにしかない価値、共感される背景やストーリーが込められた日本酒が完成したのである。

その日本酒には人のつながりや交わりで生まれたという意味を込めて「交」という名がつけられた。
 最後に、堀氏は、たなべ未来創造塾を通じて様々な人とつながることで新しい価値が生まれると三期生に伝え、講義を終えた。

補足「価値連鎖・地域経済循環」

講師(株)日本能率協会総合研究所 塩見 一三男 氏
たなべ未来創造塾 6日目 価値連鎖・地域経済循環

田上氏と堀氏の講義を踏まえ、「価値連鎖」と「地域経済循環」という二つのキーワードをもとに整理した。「価値連鎖(バリューチェーン)」はモノが生産され、消費者に購買されるまでの一連の流れの中で、自社が今どのように関わっているか、どう貢献できるのかを検討するというものである。

田上氏の事例では、今まで米屋として、米穀の卸売りから小売りという部分で関わっていた。しかし、熊野米に取り組むことで卸売り(商)だけでなく生産(農)に関わることでバリューチェーンを強化しているのである。

一方、堀氏の事例では、主な取引先である一般酒販店の売り上げにつなげることが、バリューチェーンを強めることになると考え、一般酒販店の販売割合の高い日本酒の製造に取り組むこととした。
価値連鎖の段階ごとにビジネスの種(パートナー・テーマ)があり、自社の仕事の流れを振り返ることが重要なのである。

また、「地域経済循環」については、地域の暮らしや企業活動の中でどれくらいが地域外に流出しているのか、また地域外に流出している費目を把握し、それらを地域内で代替することができないか、ということを考えることが重要である。
そうすれば、地元の所得は向上し、地域に住み続けることに繋がるのである。